音楽スタジオファイル Vol.17
Takagi's Home Studio
- Takagi's Home Studioについて
- 1985年、後のロック・バンドブームなどで一大産業となる楽器業界創生期から、楽器に関するあらゆるノウハウを現場で学んだ高木努氏が楽器販売・修理専門店としてオープン、1992年に音楽スタジオ開設。以降、今日に至るまでに数多くのプロミュージシャン達も愛用するスタジオとして広く知られることとなる。その背景には、オーナーである高木氏の職人気質と強烈な個性による求心力が源。隅から隅まで音楽が凝縮されたスタジオ&音楽空間である。スタジオでは鈴木淳(bass)、樋沢達彦(bass)、うつみようこ、角田美喜など著名ミュージシャン達のレッスンも開催している。
- Takagi's Home Studio お問い合わせ
- Takag's Home 公式サイト
世田谷区北沢1-8-2 B1
TEL 03-3465-6001
営業時間:AM11:00 OPEN
音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 Takagis Home Studio 編
このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
本日は下北沢のとなり、池ノ上にある“Takagi’s Home”オーナーの高木努さんにお話を伺います。店内には個性的なギターやベースが並んでいますが「スタジオ」という認識でよいでしょうか
スタジオ兼ショップ兼修理屋だね。
なるほど(笑)。現在のお店のスタイルに至った経緯を教えてください。オープンしたのはいつ頃ですか?
楽器屋、修理の店としては今年で創立31年になるかな。その後、建て直して、スタジオを作ったのが1992年だから、今の形態は23年前からになるはず。
楽器ショップと修理がスタートだったのですね。高木さんは『修理系』出身ですか?
『なんでもやった系』だね。当時、40年くらい前は、楽器修理といえば小売店がメーカーに出していた時代。東京でも楽器修理のお店はほとんどなかった。現在はクラシック屋になっている文京楽器(※1947年創業の弦楽器専門店)くらいしか修理はしていなかったと思う。そこはバイオリンとかのクラシック弦楽器の修理屋だったしね。
楽器の修理が出来る人は貴重だった時代ですね。
それで「修理で困ってる人って多いんじゃないの?」って話から、楽器を作って売って、修理までする会社を作ろうって人達がいたんだ。それが今のESP(※1975年創業のギターメーカー)っていう会社。そのESPの立上げに参加した。
高木さんはESPの立上げメンバーの一人だったのですね。
そう(笑)。当時、僕は一番年下で、設立発起人のメンバーの中でも一番下っ端だった。
楽器修理についての技術はどうやって習得していったのですか?
結局、修理は誰もやっていないし、やらないから誰も教えてくれない。見よう見まねで身に付けていくしかなかった。直接楽器の工場行って学んだりしたし、楽器の作り方や構造なんか大体のことはわかっていた。
まさに0からのスタートですね。
まあ、作業自体は作るのとそんなに変わらない。だけど、修理は完成している楽器を一度組み外して初期状態に戻してから作業するので、パズル的な難しさがある。それと『直す楽器』は、すでに人の所有物だから、ぶっ壊しちゃうとかなりまずい。でも、メーカーが工場で『作る』のに失敗しちゃってもそれはただのゴミになるだけ(笑)。そのへんもちょっと違う。
確かに修理してゴミにしてしまったら大変です(笑)。緊張するなあ…。
そうだよね。だから、当時のESPはミュージシャンが大勢来た。他にそんなことをやっている所がなかったからね。
修理屋ってのはポリシーがない代わりにセオリーは知ってる。
ギターとベースなど楽器による違いや、修理にあたってのポリシーなどを聞かせてください。
ギターやベースの修理、改造に関して同じようなものだね。チューンナップとかになると考えなきゃいけないけど。それと、どの楽器に対しても、修理屋という立場でのポリシーっていうのはないんだよ。ポリシーというのは楽器を使う人、ミュージシャンが持つものだから。
なるほど。あくまでお客さんのビジョンに応えると。
そのかわり、修理屋ってのはポリシーがない代わりにセオリーは知ってる。修理屋としては「アナタの言ってることならきっとこうしたほうがいい」というノウハウは持っている。けど、最終的にどうしたいかっていうのを決めるのは使い手、お客さんなのね。
なかには無理な、というか無茶な要求をされることはありますか?
確かに、注文の中には実現不可能だっていう場合もあるけど、それをなるべく現実的な処置に近づけて提案する。修理、改造っていうのはそういう事の繰り返しなんだって気もする。それでも、どっちにしろ、その楽器をどうしたいかっていうのを決めるのはお客さんだから。
これはぜひお伺いしたかったのですが、サイトの楽器紹介のポップを見て面白いなあと思いました。例えば「ダサかっこいい音!」みたいなやつ(笑)。
ね。ホントなんなんでしょうアレ(笑)。
高木さんが考えてるんですよね?
ああ、そうですね。そのまま思ったことを書いてるだけ。
掴みがうまいと思いますよ。すごく気になりました。
そうなのかな?まあ、くだらないことを書かないとウケてくれない人が多くてねえ(笑)。
逆に詳しく説明されてもピンとこないことも多いです。
音っていうのは、実際弾いてもらわないとわからないし、音の感じ方は人によって違うから。その部分はネット上では説明できないよね。
同じ音でも、音の感じ方や表現の仕方は千差万別だと思います。
だから通販で楽器買う人っていうのは、やっぱり理解できない。何十万ってものを通販で買っちゃうのは、何かすげえなって思う。こちらとしては『せめて音出して触ってみない?』って思うんだけど(笑)。
同じ型ギターでも、必ず同じ音ってわけでもないですからね。
そうそう、ただ、それは楽器屋としては非常にまずいんだけどね。
お店の立場としてまずいということでしょうか?
個体によって少しずつ音が違うっていうのはメーカーとしてまずいらいしんだ。同じ商品だと思っているお客さんからすれば、実は、全く同じではない、というのはまずい。アンプとかシンセサイザーでも個体差ってあるんだよね。でもそれは言っちゃいけないことになってるらしいけど。
となると、結構な問題発言をしてるようですが(笑)?
僕は別に構わないけど、メーカーさんが困るかもしれないね(笑)。
PAやっている奴のとこに遊びに行って現場に潜り込んだ。
いやあ、高木さんは期待を裏切りませんね(笑)。高木さんと音楽との出会いの話をおしえてください。
僕らは、ビートルズが出てきた時を知っている世代なのね。中学高校はビートルズだったり、ベンチャーズだったり、フォークソングだったり、そういうのが全部出てきた時代。その時代は、団塊の世代の人たちが中心になって音楽を盛り上げていた。ブームを作るのも団塊の世代。彼らは4才くらい上の世代で、自分たちは下から面白そうに見てる、って感じだった。
具体的にバンドを組んでいたのですか?
バンドにもなってなかったな。何となく集まって楽器を弾いていたって感じ。そんな感じで活動は高校生で終わり。その後は、イベンターやバンドのマネージャーみたいなことをやってた。その頃ちょうど『PA』というものが世の中に出てきたのね。それでPAもやってみたくなって、PAやっている奴のとこに遊びに行って、現場に潜り込んだりしていた。
PAに関する技術を学んだのですね?
学ぶというより、ただ面白かったんだよね。その後、先ほど言ったようにESPに入るのだけど、ESP時代もPAはやっていた。周りからは「ほとんどオマエの趣味だろ」って言われてたけど(笑)。ちなみに、アメリカに『パフォーマンスギター』っていうメーカーがあるんだけど、そこの社長が僕のPAの師匠。あと、今でいうトランポ屋ってわかる?
トランポ屋?わかりません…。
その当時、PA屋はトラックを持っていたから、PA機材と一緒に楽器や照明なんかのステージ道具を一緒に運送させられていたんだ。トラック運転手兼力仕事兼エンジニアということだね。まあ、そんなことをやっているうちに、こんな重たいものいつまでも運んでたくないなあとも思ってた。それもひとつの転機だったね。
力仕事、避けたいですね(笑)。その後、自分のお店を作ろうと?
いや、その後、ESPから派生した『Vestax(ベスタクス)』というDJ関連機器のメーカーで、会社立上げから働いていた。ベスタクスは昨年末倒産しちゃったけどね。
ベスタクスではどのようなお仕事をしていたのですか?
なんでもやった。製造、卸、小売りから店番まで結局全部を経験した。人手が足りなかった時代だからやらざるを得なかった(笑)。
その後、独立ですね?
そうだね。
ベスタクスを辞めて独立するにあたっては、何かきっかけがあったのですか?
いや、会社にいづらくなったっていうか、向こうも僕に居てほしくなかったっぽいので(笑)。社長がイケイケな人で、僕が「階段の踊り場ってなんのためにあるんだろう?」なんて話をしたら、なんか怒ってましたけどね(笑)。
踊り場は何のためにあるんでしょうね(笑)。「何を言い出すんだコイツは?」的な発言であることは否めません(笑)。
まあ、そんな風に何にでもブーブー言うから、自分で商売やろうって思った。楽器業界って結構あたたかい業界で、辞めても、みなさんわりと優しくしてくれるんだ。小さい世界だからね。
身内的な繋がりがあるんですね。
だから個人で店を始めても、問屋さんやメーカーさんも、現金決済ではなく掛売にしてくれる。業界が小さいから、それまでの信用を個人経営になっても続けてくれる。その中で付き合ってきた人たちが相変わらずうちのスタジオを使ってくれたりもする。
高木さんの人望によるところが大きいと思います。
でも、そのおかげで利用客の平均年齢が下がらないんだよね(笑)。今、この時間にスタジオ入っているのは40代のお客さん達だけど、それでも、うちではかなり若手。隣の部屋は50代にリーチかかっているからね(笑)。バンドブーム世代の人たち(笑)。
まだまだイケる年代ですよ! スタジオではうつみようこ(メスカリン・ドライヴ)さん、角田美喜(SHOW-YA)さん等プロによるレッスンが行われていますね。
彼女たちも、いろんな繋がりから知り合って、レッスンでうちのスタジオを使ってくれるようになった。うつみようこは最近、自分の仕事が忙しくて日本中をうろうろしているよ(笑)。
うつみようこさんの『デス声教室』には驚きました。
あれは受講者がいないんですよ。いや、ひとりいたかな(笑)?
そもそも着眼点がヤバイです(笑)。
あの人、声でかくて、うるさくて、とんでもないけどね、でも、すごく通る声をしている。説得力がある。本人は何かコツをつかんでいるみたいだね。世の中には、声がでかくても通らない声って人もたくさんいるから。
身体内部の技術ですね。
他のレッスンでも、Scott Lathamという日本語ペラペラのアメリカ人のドラマーや、ベースの樋沢達彦は教えることのプロフェッショナルだよ。そして、ウッドベースでは超ベテランの鈴木淳もいる。一時期、ベース業界では「石を投げると鈴木淳一門に当たる」と言われるほど、日本一生徒が多い先生。樋沢君も鈴木さんの弟子だからね。
スタジオレッスンの方も超がつくほど個性的ですね。
まあ、レッスンは基本的にはスタジオのスペース貸しで、各先生が各々に教室を開いてる感じ。うちとしては、スタジオを使っていただける時間が増えればいいので、それでいいかなと。ただ、レッスン告知や生徒募集なんかは出来る限り協力してるよ!
やりたいように、なんとかやってるだけ。できることなら早く引退したい(笑)。
お店にある楽器の方もかなり個性的なものを感じます。
品ぞろえでいったら渋谷の大型店には勝てないからね。同じ土俵で戦っても体力が全然違う。資金力も0の数が2つ3つ違う。そうなると個性的なものを置かざるをえない。ただ、以前は大型店特有の『隙間』があったけど、だんだんとその隙間がなくなって、正直困ったなあとも思っているんだけど(苦笑)。
大型店もいろいろ勉強しはじめたのでしょうか?
僕なんかよりよっぽど真面目に勉強しているよ。向こうはちゃんとビジネスだから。
結果的に、高木さんの色そのままに自然に魅力的なお店になりましたね。
やりたいように、なんとかやってるだけなんだけどね(笑)。できることなら早く引退したいと思ってるんだけど、なかなかね…。
そんなこと言わずに(笑)。こんな面白い場所はビジネスだけでは作れないはずです。
まあ、今は偏ったスタジオってこと。
ところで皆が知りたい質問ですが(笑)、和服はいつも着ているのですか?
結構着てるかな。やっと涼しくなったから着やすくなったし。コスプレの一種みたいなもんで、面白がってるだけ(笑)。
それでは最後にTakagi’s Homeからのメッセージをお願いします。
とにかく遊びに来てくれれば、それだけで十分! 別にお金を持ってなくてもいいし、何か買いに来ようとかでなくてもいいから。
ここには練習スタジオ以上の文化を感じます。
そういう点で頑張ってくれているのが、今スタジオに入っているシアター・ブルックの佐藤タイジかな。彼は『THE SOLAR BUDOKAN』っていうイベントをやっていて、ここのスタジオ繋がりで出演しているバンドもいる。それが一つの文化になってると思う。
佐藤タイジさんの行動力はすごいですね。
すごいよね。ただのホラ吹きじゃなかった(笑)。尊敬している。最近は、加山雄三さんまで巻き込んでるからね。「徹子の部屋に出る!」とか言ってたし(笑)。彼の「人を巻き込む力」はすごいものがある。今年は『THE SOLAR BUDOKAN』に子供バンドも出てたし、OKAMOTO'SやFLiPもそうだね。だから僕も、『THE SOLAR BUDOKAN』は関係者が多いから行っているよ。
FLiPといえば、ここ最近は女子バンド目立ちますね。
FLiPとかオレスカバンド、SCANDALあたりの世代は女子バンド当たり年だった。 FLiPには「女子高生のアイドルになったらいいよ!」って言ったけど、最近は来てないね(笑)。
登竜門的スタジオですね。では、本当に最後に一言。
来たらピックでも買っていってね(笑)!
お茶目な発言頂きました(笑)。本日は濃密なお話ありがとうございました
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