StudioASPが取材した音楽スタジオ・インタビュー特集(全66回・2014年3月〜2019年10月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

音楽スタジオファイル Vol.20

高円寺 スタジオ・コヤーマ

スタジオ・コヤーマ について
高円寺北口から徒歩3分もリハーサルスタジオ。ユニークなスタジオ名と高円寺という土地柄で奇天烈なスタジオをイメージさせるが、そのイメージを大いに覆す堅実かつ利用客思いのスタジオである。オーナー小山氏のプランニングで、多くのバンドに愛されるており、高円寺の音楽文化に新たな一面を加味している。スタジオの前身は、ギタリストの小林克己氏が経営していたRGS。当時RGSに勤務していた小山氏が引き継ぐ形で2013年8月にスタジオ・コヤーマとしてオープンした。
スタジオ・コヤーマ お問い合わせ
スタジオ・コヤーマ公式サイト
杉並区高円寺北2-18-7 千恵ビルB1
TEL:03-5373-8248
受付時間 10:00〜24:00
※予約がない場合は23:00で受付終了

音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 スタジオ・コヤーマ 編

このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

合同会社スタジオ・コヤーマ代表 小山雄介 氏

本日は高円寺スタジオ・コヤーマ、オーナーの小山さんにお話を伺います。よろしくお願いします。まずはスタジオ設立の経緯をお聞かせください。

以前、この場所はRGSという25年くらい前からやっているスタジオでした。そのRGSが2年ほど前にスタジオを閉めることになり、代わり、私がオーナーとなって「スタジオ・コヤーマ」として再スタートしました。それが2年前(2013年)の8月です。

表にRGS の看板もまだありましたね。

名残がそのまま残っているだけなんですけどね(笑)。そもそも、僕はRGSの社員だったんです。その後、独立してスコア採譜やライター等の仕事をしていたのですが、2年前に「RGSを閉めるからスタジオをやらないか?」という話が来たので、やってみることにしました。

決意のきっかけは?

40代も中盤になって、この先、採譜の仕事をいつまでできるかわからないし、この先の将来のために何か始めたいと考えていた時、たまたまこのスタジオの話が来たわけです。もちろん、スタジオ経営も十人のうちの一人が成功するかどうか…、ですが、安定した経営ができれば収入が入り、将来の安定にもつながると思い決意しました。決めるまで一週間は考えなかったですね(笑)。

決断早すぎです。ただ、経営が安定しないという可能性も十分にありえますよね?

そうですね。お客さんが来ないと話にならない。利益がなければ、やった分だけ損していくことになりますからね。実際、ギャンブル的な部分もありますが、同時に成功する可能性もあります。元々の採譜の収入は安定していたので、それもやりつつ、スタジオもやってみようと思いました。

とても堅実なスタート方法だと思います。

実際には甘くなかったです。スタジオレンタル代を低価格にして、お客さんの反応とか、経験を踏まえつつ、そのつど考え方を変えていって、8〜9割くらいのスタジオ稼働率まで持ってきました。それでも、現時点では採譜の仕事を加えた上で私の給料が発生している状態ですので、成功、とまでは言えませんが、とりあえずは、まあいいかなという状況です。

稼働率アップで、新スタジオとコントロールルームを製作中。

最終的にはスタジオ経営のみでやっていけるというのが理想ですか?

そこを目指しています。オープン時はスタジオ二部屋しか契約していなかったのですが、お客さんがたくさん入ってくれて稼働率がアップしたので、今年(2015年)の1月に別の部屋に新しいスタジオを作りました。

なるほど、二部屋から三部屋になったわけですね。

はい。さらにその三部屋と別に、16畳ほどの機材部屋の一部をボイストレーニング用等に安く貸していました。でも、それだと広い部屋なのに売り上げが少なくなってしまうので、現在、仕切りを作って四部屋目のスタジオとレコーディング用のコントロールルームを作っている最中です。その費用は借金になりますけどね。

当然ですが、何をやるにも費用がかかりますね。

今回は、これまでの経営実績もあったので簡単に借りることができました。計算の成り立つ借金です。三部屋を作る際の借金は、すんなり貸してくれなかったんですけど。

かなり計画的に着実に進めていますよね? スタジオ・コヤーマというネーミングのように軽いノリで始めたのかと思っていました(笑)

まあ、それでも「行っちゃえ行っちゃえ」ってノリもありますけどね(笑)。以前に、採譜の仕事をしていた部屋をスタジオ・コヤーマと自称していて、スタジオを作るときも、そのままスタジオ・コヤーマでいいやと思っちゃって(笑)。

そのネーミングへの反対意見はありませんでしたか(笑)?

ある人に相談した時には反対されましたけど、名前に頼っていたら成功しないと思いまして(笑)。

日本一ゆるい名前のスタジオだと思います(笑)。楽しんでいますね。

楽しめることはといいことだとは思いますけど、それでも、食っていけないとしょうがないので、スタジオを増やす時も、徹底的にいろいろ考えましたよ。失敗したら恐ろしいですもん(笑)。

今後、さらに別店舗を増やす計画などはありますか?

他の場所は考えていないです。規模を大きくすると目が行き届かなくなりますので、このスペースで出来るだけ稼げるようにと考えています。

やはり堅実ですよ。では次に、小山さんと音楽に出会いを教えてください。

中学二年の時に友達にバンドに誘われてからですかね。それまでギターを弾くなんて考えてもいなかったんですけど、とりあえずやってみるかと思ってギターを買ったら、いつの間にかここまで来ちゃったという感じ(笑)。

これまでの経歴をみても、ギターの腕もかなりのレベルですよね

動機が動機なので、心底好きというわけではありませんでしたが、それなりに上達したと思います。10年くらい講師活動もしていましたし。

そこまで至る経緯をもう少し詳しく教えてください。

高校を卒業するまでギターを習っていました。高校三年生の時に、さらに高いレベルのレッスンを受けて、音楽理論をマスターして採譜が出来るようにまでなりました。進学後はレッスンをやめたのですが、そのうちに大学の方がつまらなくなってしまったので、大学の方をやめました。その後、習っていたギターの師匠の門をたたいて、弟子にしてもらったという感じです。

ギターの師匠のお名前、聞いてもいいですか?

近田春夫&ハルヲフォンや、一時期、四人囃子でギターを弾いていた小林克己さんです。その師匠に本格的に鍛えてもらいました。師匠は、教本などの書籍関係の仕事も多く持っている方だったので、それらの仕事を回してくれるようになりました。

師匠は四人囃子の小林克己さんだったのですね!

その師匠がやっていた会社が、先にも言ったRGSです。RGSはギター講師を楽器店に派遣していたので、僕もギター講師もやりましたし、それから音楽誌のライターや、採譜をやるようになりました。

そしてRGSのスタジオスタッフとしても。

そうですね。20年くらい前に、受付に座って採譜をやりながら、お客さんの対応していました。

それで、RGSスタジオの引き継ぎの件が小山さんに来るわけですね。

そうですね。RGSのスタジオ業務も見ていたので、オープンを成功させ、お客さんが増えるポイントをつかめれば、徐々にスタジオを増やしてやっていけるな、と考えたのです。

いきなりスタジオだけで食おうとしても難しいと思う。

これからスタジオを経営したいと思っている人へのアドバイスをいただけますか?

アドバイスできることとしたら…、辞めたほうがいいんじゃないですかね(笑)? 僕も現状はスタジオだけで食っていけている状態ではないですから、完全に成功しているとは言い切れませんし。

スタジオ経営以外にも別の仕事も持っていた方がよい?

そうですね。いきなりスタジオだけで食おうとしても難しいと思いますよ。

それでもコヤーマはスタジオ稼働率が高いですよね。お客さんを増やしていくコツなどはありますでしょうか?

アルバイトの人にも最初に言うんですが、例えば、料理屋に入りたいという時に中の様子が見えず雰囲気がわからないお店だと、入るのにも勇気いるじゃないですか? お店がガラス張りで、入口から中の様子がわかれば入りやすいですけど。

はい、確かに入りにくいです。

お店に入っちゃってから、変な雰囲気だったとしても帰りにくいものです。中が見えないってそれだけ入りにくいんです。同じように、このスタジオは地下ですし、薄暗い階段から入るので中の様子がわからない。だから、初めてのお客さんは相当勇気を振り絞って入ってくると思うんですよ。

地下の謎めいた雰囲気は否めませんね(笑)。

なので、「お客さんが初めて入った瞬間に、明るくあたたかく声を掛けられなかったら、このスタジオはおしまいなんだ」と伝えてます(笑)。2回目以降の来店では、そこらへんはクリアーされますが、とにかく最初の印象は大事なんです。

スタッフはニッコリしていないとダメ。当たり前ですけど、なかなか難しい。

つかみの大切さですね。

初対面だとどうしても不愛想になりがちですけど、不愛想だとお客さんは緊張するし、ニッコリしてるとお客さんは安心する。だから、スタッフはニッコリしていないと駄目なんです。当たり前ですけど、続けるのはなかなか難しい。それが出来れば全てうまくいくと思います。と言いながら、簡単にはいかないですけどね(笑)。

音楽関係者は愛想が苦手な方も多いですからね。

そうですね。でも、こここそが大切な部分なんです。他にも、うちはスタジオ代も安いし、ジュースも全部100円ですし、カウンターに置いてある機材なども他より安いし、ギターなどのレンタルも全て無料。さらには、数に限りはありますけどマイクを何本借りても無料ですし、コピーも10枚までは無料です。

利用者のため、そして低価格という差別化の徹底を感じます。

まずは多くの方達に来てもらうという所を第一に考えていますので、スタジオ内のコンテンツは徹底して安くしています。そこでの儲けは考えていません。また、お客さんの居心地というのも大事な要素ですので、あえてロビーの広さにもこだわりました。収益的にはスタジオの方を広くした方が儲かるのですが(笑)。

低価格を維持しながらのサービス向上はバランスが難しそうです。

後は、部屋の鳴りはよくないと駄目だというのを痛感しましたね。開店当初は、中級者程度のプレイヤーに納得していただければいいと思っていたのですが、部屋の音響がしっかりしていると、練習を終えたお客さんから良い反応がある。なので、スタジオを作るときは、妥協せずに、とにかく音が良くなるようにと作りました。結果、結構なお金がかかってますね(笑)。

「いかに、お客さんに気持ちよく使ってもらうか」という部分に焦点を当てているのですね。

そうですね。自分が使った場合に「嫌だな」って思うところがないように心掛けています。

スタジオ経営の大切な原点を聞かせていただきました。本日はありがとうございました。

こちらこそありがとうございます。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2015年12月/ 最終更新 2018年10月)

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コヤーマ駐輪場
入リ口階段の踊り場に常設されている「スタジオ・コヤーマ専用駐輪カード」。自転車&バイクでお越しのお客様は、この札をハンドルやミラー等にかけて駐輪し、帰りに返却する。入口前コインパーキングを利用する車の出入りの妨げにならない駐輪マナーにも配慮。万が一、札をかけっぱなしで「コヤーマ号」として帰ってしまった場合は次回に返却。
高円寺駅(JR中央線)
新宿駅からJR中央線快速で約7分(※土日祝は快速通過)。北口の純情商店街、中通り商店街、南口のPAL商店街など、南北に広がる商店街エリアと高架下を中心に、安くて旨い食と酒、人とのつながりを潤滑油に、音楽や文学など多様なカルチャーを生み出してきた中央沿線の街。庶民生活の活気と憂い、夢と郷愁が入り交じる。