StudioASPが取材した音楽スタジオ・インタビュー特集(全66回・2014年3月〜2019年10月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

音楽スタジオファイル Vol.37

KRH STUDIOSは、2018年1月末でリハーサルスタジオ業務を終了しました。

原宿 KRH STUDIOS

KRH STUDIOSについて
原宿駅竹下口から徒歩3分、神宮の杜に隣接する閑静なロケーションに2007年オープン。コンディションの良い定番機材を揃えたスタジオ3部屋とコントロールルーム、都心にいることを忘れるリラックスした雰囲気が魅力のリハーサル&レコーディングスタジオ。スタッフ・エンジニアは全員バイリンガルのため、予約受付からレコーディングのやりとりまで、すべて英語で対応可能。プロからアマチュア、外国人ミュージシャン、高校生バンド、声優さん、幅広い利用者と多様なニーズに対応する「都会の穴場」スタジオ。
KRH STUDIOSお問い合わせ
KRH STUDIOS公式サイト
渋谷区千駄ヶ谷3-62-7 KRHビルB1
TEL 03-5879-5844 (English OK)
営業時間 11:00〜24:00
※予約の無い場合は22:00閉店

音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 [Closed] 原宿KRH STUDIOS 編

このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

KRH STUDIOS マネージャー/エンジニア 森佑允 氏

本日はKRH STUDIOSマネージャーでエンジニアの森佑允さんにお話をお伺いします。原宿駅のすぐ近くでありながらとても静かな立地ですね。まずはスタジオの紹介からお願いします。

当社KRHは建設関連事業の会社で、このスタジオはその中の関東支社、音楽事業という位置づけで、スタジオは2007年にオープンしました。オーナーはミュージシャンのケネス・アンドリュー(フロリダ生まれのミュージシャン、エンジニア。1992年、木暮武彦、厚見玲衣らとカジノ・ドライブを結成し来日。)で、僕がマネージャー・エンジニアをやっています。

有名アーティストの方も利用するプロユースという印象がありますが、スタジオの特徴を教えてください。

プロからアマチュアの方まで幅広く使っていただいています。オーナーがアメリカ人という事もあって、スタッフは僕を含めて全員、留学経験などがあるバイリンガルなんですよ。なので、外国人による東京のミュージシャンコミュニティがあるのですが、そのような方々にご利用頂いています。

スタッフが英語で対応できるのは外国人のバンドにとっては安心ですね。

はい、予約の受付からレコーディングの細かいやり取りまで英語で対応できます。それもあって、全体の1/3ぐらいは外国人のミュージシャンやバンドです。他のスタジオよりもアメリカ的なリラックスした雰囲気だと思います。

レコーディングとリハーサル、どちらにも対応したスタジオですよね。

はい、両方対応です。基本的にはリハーサルがメインですが、リハーサル利用の常連さんがレコーディングでも利用していただくケースが多いですね。

レコーディング機材にもちょっとしたこだわりが感じられます。

ノイマンのマイクやニーヴのマイクプリ、定番でコンディションの良い物をそろえているので、リーズナブルながら、プロスタジオと遜色なくレコーディングができます。プロの方がプリプロや歌録りに使ったり、アマチュアの方が現実的な予算内でCDを作ったりするのに向いています。

それと、ロケーションもとても静かでいい立地ですね。

原宿駅から歩いて数分なのに、明治神宮に隣接していることもあって、信じられないぐらい閑静ですね。「原宿にこんなにリラックスできるスタジオがあるんだ」という声をよくいただきます。

まさしく「穴場スポット」といったスタジオですね。

常連さんに穴場だと思って使っていただいているのはうれしいんですけど、穴場すぎて他の方には教えたくないとおっしゃる方もいます(笑)。なので、ぜひともこのStudioASPさんの取材で多くの方に知っていただけたらいいですね(笑)。

録音スタジオの用途は多様化してきている

ここ最近のスタジオ稼働状況についてお聞きしたいのですが、バンドの数が全体的に減ってきているという話をよく聞きますが、影響はありますか?

いろいろとスタジオ事情を耳にしますが、KRHではそういう影響はないですね。僕としても、バンドや音楽をやりたい若い子たちが極端に減ったとも思わないですし、スタジオの需要も減っているとは感じていません。でも、録音スタジオの用途は多様化してきている感じはあります。

なるほど、どのような変化でしょうか?

一例ですが、ここ数年の変化としてはアプリの収録が増えました。スマートフォンが普及し、アプリの中の音声や、ナレーション、ゲームのセリフなどを収録するためにレコーディングスタジオを使いたいというゲーム会社やIT関連会社が増えてきました。

それらは、10年前にはなかった新しい「録音」のニーズですね。

最近だと、声優さんの録音で、ゲームのセリフを500個ぐらい録ったりなどもありましたし、スマートフォンの音声認識のソフトのために200個ぐらいあるセリフを、それぞれ100人レコーディングするというのもありました。どれも新しい経験ですが、いろいろな要望にできるだけ応えていきたいですね。

それでは続いて、森さんと音楽の出会いについて教えてください。

僕は1988年生まれで、世代的に、最初に“ガツン”と音楽でやられたのは、エミネムなんです。彼の、言葉で畳みかけて、全ての不満を撒き散らかすような姿勢が、中学2年生の多感な自分には刺さりましたね。

これまでの取材で、エンジニアさんはロック育ちの方が多かったので、ヒップホップ育ちは森さんが初めてかもしれないです。

その頃は英語もほとんど理解できなかったけど、言葉の迫力、ラップのフローとか、ドクター・ドレーの体にズシンとくるビートにはやられましたね。それから、洋楽などを聴き始めるようになりました。

中学生だとバンドを始める年代ですが、楽器は何かされていたんですか?

僕も、一応ギターを始めました。でも正直、ギターでかっこいいって思えるミュージシャンがいなかったんですよね…。あ、リンキンパークはかっこいいと思いました。Pro Toolsなんかの録音機器もリンキンパークのドキュメンタリーを観て知ったんです。曲やギターというよりサウンドの迫力に惹かれました。

その頃からサウンドプロダクションに興味を持ったのですね?

そうですね。唯一、ギターヒーローだったのはレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドですが、それも足元に並べたペダル(エフェクター)でギターとは思えないような音を出していたのに衝撃を受けました。

エンジニアという職業を目指したことはない(笑)

根っからのエンジニアですね。自然とエンジニアを目指すことになったのでしょうか?

いえ、具体的にエンジニアという職業を目指したことはないんですよ。気づいたらエンジニアになっていたという感じです(笑)。

やはり、根っからのエンジニアです(笑)。KRHに入るまでの経緯を教えてください。

そういうわけで洋楽が大好きだったので、高校時代は英語の勉強をがんばって、アメリカのシカゴの大学に留学しました。そこでは「音楽ビジネス・マネージメント」という総合的に音楽ビジネスを学ぶ専攻で、会計、経営、著作権などのクラスのなかに「スタジオでアーティストをプロデュースする」というクラスがあったんです。まずは、そこでレコーディングの基礎を学びました。

スタジオ経営に興味がある人にとって、パーフェクトな学習環境ですね。

大学進学祝いで買ってもらったパソコンにPro Tools LEという、簡易版ながら基本のソフト部分はプロ用と同じものを入れて、個人的にレコーディングをして使いこなしていたのですが、大学を卒業するには、どこかの企業でインターンシップをしないと単位をもらえないことがわかりました。

アメリカの大学は卒業するのが難しいとよく聞きますね。

なので、シカゴにあるスティーヴ・アルビニ(Steve Albini / アメリカのミュージシャン・エンジニア。多数のオルタナティヴ、ロック系バンドのエンジニアを務める。)がやっている「エレクトリカルオーディオ」というスタジオに、半年間インターンをさせてもらいました。プロのレコーディングスタジオで働いた初めての経験です。

あの有名なエンジニアのスティーヴ・アルビニですか!?

はい、ニルヴァーナの『In Utero』など録音した、オルタナティヴ、ロック系で有名なエンジニアです。それで無事大学を卒業して、そのエレクトリカルオーディオスタジオの推薦状を握りしめて、2010年に日本に帰ってきました。

とても貴重でパワフルな経験でしたね。そして帰国後、KRHに入るのですね。

はい。ここ(KRH)の面接のときに、オーナー(ケネス・アンドリュー)に『スティーヴ・アルビニ』と書いてある推薦状を見せたら、その日にその場で採用になりました。

「音楽の楽しさ、すばらしさ」を分かち合いたい

森さんがスタジオ運営に携わっていてよかったなと思うことを教えてください。

お客さんのライブを観にライブハウスに行かせてもらうことがありますが、そこでたくさんの人がステージに感動している様子を目にするときですね。僕らが日々スタジオを掃除したり、機材をメンテしたりして、心地よく練習できる空間を提供していることが、このライブの感動につながるんだ!と実感できるので、仕事のやりがいを再発見できます。

それはかけがえのない事ですね。バンドもスタジオのスタッフをはじめ、多くの方に支えられていますからね。

当然、経営的には、もっと多くのお客さんに使っていただいて、レコーディングも増えて欲しいですが、それ以前に「音楽をやることの楽しさ、届けるすばらしさ」を分かち合いたいなあと思います。すべてはそういうところから始まるんじゃないでしょうか。

それでは最後にKRH STUDIOSからメッセージをお願いします。

KRHのウェブサイトを見ると、英語が混じっていて、入りづらく思われるかもしれませんが、実際は、アマチュアの高校生のバンドから外国人、プロの方まで、幅広く使っていただいているアットホームなスタジオなので、リハーサルのこと、レコーディングのこと、些細なことでも興味があったら連絡してください。ぜひ、お気楽に使ってくださいね。

都心にありながら、閑静な環境に囲まれたおすすめスタジオです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2016年10月)

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原宿駅(渋谷区)
明治神宮のお膝元、流行最先端エリア「原宿・表参道」の玄関口として、多くの若者や観光客が訪れるJR山手線の駅。大正レトロな都内最古の木造駅舎、北側には皇室専用の宮廷ホームがある。2020年五輪に向けて新駅舎を建設し(現駅舎の保存は未定)、年始の臨時ホームを外回り専用ホームに改良、表参道口・竹下口に加えて明治神宮口を新設。